2022.03.28
芝へ牛尿発酵液を葉面散布した際の影響と最適散布量の調査により、 芝生の根張り促進への有効性を示唆
環境大善株式会社 土、水、空気研究所は、株式会社リバネス 農林水産研究センターと牛の尿を微生物により分解した液体である牛尿発酵液(弊社製品「液体たい肥 芝生がいきいき」、「液体たい肥 土いきかえる」)の植物への施肥効果について調査するため共同研究を進めてきました。
本試験では、牛尿発酵液を芝(グリーピングベントグラス)に用いることで草丈、SPAD値、葉緑色が増加することを新たに発見しました。さらにより散布量を増やすことでその効果は高まり、根長が顕著に長くなることを見出した。この結果から牛尿発酵液の散布が芝生管理方法として有効な手段であると考えられます。
研究背景・目的
グリーピングベントグラスは多年生植物でアグロスティス属の中でも代表的な種の芝です。現在は世界各地のテニスコート、ゴルフ場のフェアウェイやグリーン、都市部の造園に広く利用されています。ゴルフグリーン等の厳しい環境下で芝生の品質を維持するには根系を健全に保つ必要があり、芝の根張りが良くなると干ばつストレス耐性や窒素吸収量が向上することが知られています。さらに土壌のより深部から水分を吸収することができ灌漑の量を減らすことにもつながります。先行研究では土壌中に局所的にリン酸アルミニウムを供給することでクリーピングベントグラスが土壌深部まで根を張ることが報告されています。このように芝生管理において根張りを促進するための施肥設計は重要な要素となります。
環境大善(株)と(株)リバネスはこれまでに牛の尿を微生物処理した液体である”牛尿発酵液”に小松菜の生育を良好にする効果があることを見出しました。特に水耕栽培では根の乾燥重量が顕著に増加し、根張りが向上することが確認されました。このことから当研究グループは牛尿発酵液をグリーピングベントグラスに散布することで同様の効果がみられると考えました。そこで、本試験ではグリーピングペントグラスのロールを定植後に牛尿発酵液を葉面散布によって生育にどのような影響を与えるか確かめたました。加えてポット栽培で最適な散布量の探索を試みました。
研究成果
ロールを用いた試験は、露地の畑を均一に耕運した上から踏み固まらない芝の床土(自然応用科学株式会社,愛知,日本)と芝生の肥料(株式会社ハイポネックスジャパン,大阪,日本)20 gを混ぜ、その上からグリーピングペントグラスのロールを植え付けました。ロール内に牛尿発酵液を散布する区(250倍区)、しない区(対照区)としてそれぞれ3区画(1区画170 cm×30 cm)設けました.試験は2021年9月4日の植え付けから2021年12月19日まで行いました。10月3日(植え付け29日目)から草丈、葉の濃さ(SPAD値)、葉緑色の計測を試験終了(植え付け106日目)までしました。最終計測時には分げつ数、根長の測定も合わせて行いました。葉緑色は各区画を上から撮影した画像をImageJに取り込み、枯れている部分の色相を選択、枯れている面積を割り出し、算出しました。刈り取りは植え付け50日目に実施し、生鮮重量を測定しました。処理区には250倍希釈の牛尿発酵液を1.04 mL/m²の散布量となるよう植え付け21日目、50日目、85日目に葉面散布しました。
草丈は、43日目で250倍区が対照区に比べ有意に高くなりました。刈り取り後、64日目、78日目以降で250倍区が対照区に比べ有意に高くなりました(図1A)。SPAD値は日数経過に伴い低下しました。50日目に250倍区が対照区に比べて有意に高くなりました。また刈り取り後、64〜78日目でも250倍区が対照区に比べて有意に高くなりました。99、106日目も250倍区が対照区に比べて有意に高くなりました(図1B)。葉緑色は50日目の刈り取り後から71日目まで250倍区が有意に高く推移しました。78日目以降は差がみられませんでした(図1C)。
図1 各区画の草丈、SPAD値、葉緑色の推移
(A)は草丈、(B)はSPAD値、(C)葉緑色の推移を示している。*、**はp<0.05、0.01を表しており、対照区と統計的に有意差があることを表している。
刈り取り生鮮重、分げつ数、根長は対照区と250倍区の間に有意な差はみられませんでした(表1)。
図2 刈り取り後の芝の様子
ポット栽培は1/5000aワグネルポットに赤玉土を入れ、その上に踏み固まらない芝の床土(自然応用科学株式会社,愛知,日本)とバーミキュライトの混合土を充填し、さらに芝生の肥料(株式会社ハイポネックスジャパン,大阪,日本)をひとつのポットにつき2 g撒いた後、グリーピングベントグラスの種を播種しました。試験には対照区、処理区には牛尿発酵液を2 mL/m²与える区(2 mL区)、4 mL/m²与える区(4 mL区)のふたつを設け、播種後36日目から毎週葉面散布しました。播種後は植物用LEDの下、25℃、PPFD 80 µmol/m²·s、16時間明期の条件で71日間栽培しました。播種後36日目から草丈、葉緑色を試験終了まで毎週測定しました。葉緑色はポットを上から撮影した画像をImageJに取り込みロールでの試験と同様の方法で算出しました。刈り取りは播種後50日目、64日目に行い、生鮮重量を測定しました。また、試験終了時に掘り取りにて根長を測定しました。
草丈は、各ポット3か所計測を行い、その平均値を算出した。4 mL区は2 mL区、対照区に比べて50日目刈り取り前と57日目で有意に高くなりました。64日目では、4 mL区が対照区に比べて有意に 高くなりました(図3A)。ポットの上部画像から分析した葉の緑色割合は、ロールでの試験とことなり試験期間中に有意な差はみられませんでした(図3B)。
図3 各区画の草丈および葉緑色の推移
(A)は草丈、(B)は葉緑色の推移を示している。*はp<0.05を表しており、対照区と統計的に有意差があることを表している。
刈り取り生鮮重および根長の測定結果を表2に示しました。刈り取り生鮮重は50日目、64日目ともにすべての条件で差がみられませんでした。根長はポットから群落を抜き取り、根元から根の長さを5か所測定し平均値を算出しました。処理区は図4の写真からポット下部の赤玉土にまで根が張っていることが見て取れ、4 mL区、2 mL区がともに対照区よりも根長が有意に長くなりました。
図4 各区画の根張りの様子
今後の展望
ロールでの試験では牛尿発酵液の散布によって草丈、SPAD値、葉緑色の向上が確認されました。葉緑色は主に刈り取り後に顕著な差がみられたことから、芝生刈り取り後の景観の維持に寄与できることを示しました。また、ポットでの試験ではロール試験と同様に牛尿発酵液の散布によって草丈が伸びていることが確認されました。一方で葉緑色には差がみられず、どの区画においても常に高い値を推移しました。これは露地で実施しているロール試験よりも環境負荷が低かったことが要因として考えられます。また根長もロール試験とは異なり処理区で顕著に長くなっていることが判明しました。これはロール試験とポット試験での散布量の違いに起因するものであると推測されます。この結果から牛尿発酵液は4 mL/m²での散布が推奨されることが判りました。
本試験では、牛尿発酵液が芝生管理のための液肥として有効であることを見出しました。今後は再度ロールで最適濃度での効果検証や牛尿発酵液と液肥の組み合わせの効果を検証し、その作用機序についても解明していく必要があると考えられます。また、根張りの向上は干ばつストレス耐性や窒素吸収、芝の定着率に関連していることから、生育に関する評価項目以外にも影響を与えている可能性が考えられます。当研究グループは牛尿発酵液の散布を芝生管理の手法として確立することを目指し今後も取り組んでいく予定です。
補足説明
・SPAD値
植物の葉緑素の濃度を数値化したもの。
お問い合わせ先
環境大善株式会社 土、水、空気研究所
主任研究員 加藤 勇太
電話:0157-67-6788
メール:y.kato@kankyo-daizen.jp
株式会社リバネス 農林水産研究センター
センター長 宮内 陽介
電話:03-5227-4198
メール:miyauchi@lne.st