2024.09.04

環境大善株式会社と北見工業大学の共同研究における成果がBioscience, Biotechnology, and Biochemistryに掲載されました

 環境大善株式会社は、国立大学法人 北海道国立大学機構 北見工業大学との共同研究で牛の尿由来の液体肥料がモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana※1の生長をホルモン様の反応を通じて促進することを明らかにしました。本成果は学術誌「Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry」の第88巻9号に掲載されました。

【研究のポイント】

  • 牛尿由来の液体肥料(LF)が、シロイヌナズナの地上部と地下部の生長を顕著に促進し、その効果が単なる栄養供給に留まらないことを発見
  • 植物の生長を促進する複数の要因を含んでいることを確認
  • 遺伝子発現解析により、LFがシロイヌナズナの植物ホルモンシグナル伝達に影響を与えることを発見

【研究背景】

 牛の尿は長年、農業における肥料として利用されてきました。牛尿には豊富な栄養素が含まれており、窒素、リン、カリウムなどの重要な植物栄養素を供給することができます。しかし、適切に処理せずそのまま使用すると環境汚染を引き起こすリスクがあります。この問題を解決するために、牛尿を好気性微生物で処理する方法があります。しかし、この好気性微生物処理※2された液体肥料(Liquid fertilizer;LF)の施肥効果については、これまで十分に明らかにされていませんでした。

 本研究では、好気性微生物処理で作られたLFがモデル植物であるシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)の生長に与える影響を調査しました。シロイヌナズナは植物生理学および遺伝学の研究において広く利用されるモデル植物であり、植物への影響を評価するための標準的な対象として広く利用されています。本研究は、LFがシロイヌナズナの地上部および地下部の生長に与える具体的な影響を明らかにすることを目的としています。さらに、LFの生長促進効果による遺伝子応答を明らかにするため、トランスクリプトーム解析※3を行いました。これにより、LFがどのようなメカニズムで植物の生長を促進するのかを調査しました。

【研究結果】

 本研究では、無菌条件下でシロイヌナズナを50% Murashige and Skoog培地※4にさまざまな濃度の液体肥料(LF)を添加して栽培しました。また比較対象としてLFと同濃度の窒素、リン、カリウムを含む液体肥料(CD-control)も用意し、その効果を比較しました。実験の結果、LFはシロイヌナズナの地上部生鮮重量を最大1.78倍、主根の長さを最大1.88倍に増加させることが確認されました(図1)。このことから、シロイヌナズナの生育促進が、窒素、リン、カリウムといった主要な栄養素の添加だけによるものではないことが明らかになりました。

図1 栽培後のシロイヌナズナの(A)地上部生鮮重量と(B)主根長。*は50% MSと統計的に優位に差があることを示す(p < 0.05)。

 さらに、10,000 MWの限外ろ過膜※5により分画されたLFは画分毎に異なる生長促進効果を示しました(図2)。低分子画分(LM-LF)は、シロイヌナズナの地上部と地下部の両方に対して有意な生長促進効果を示しました。一方、高分子画分(HM-LF)は、主に地下部の生長、特に根の伸長に対して顕著な効果を示しました。これはLFには異なる生長促進因子が存在し、それぞれが異なる部位に特異的に作用することが示唆されます。

図2 栽培後のシロイヌナズナの(A)地上部生鮮重量と(B)主根長。*は50% MSと統計的に優位に差があることを示す(p < 0.05)。

 トランスクリプトーム解析を通じて、LFの添加により353の遺伝子がアップレギュレートされ、512の遺伝子がダウンレギュレートされることが明らかになりました。これらの遺伝子は、植物ホルモン※6のシグナル伝達※7に関連しており、特にサイトカイニン※8のシグナル伝達が活性化されていることが確認されました。さらに、LFが植物ホルモン様の効果を持ち、地上部と地下部の生長を異なるメカニズムで促進していることが示唆されました。

【今後の展望】

 今後の研究では、LFの生長促進メカニズムの詳細な解明と、他の植物への適用可能性を探る予定です。また、LFの成分解析と生長促進メカニズムの解明が進めば、より効果的な肥料の開発が期待されます。さらに、LFを利用した大規模なフィールド試験を行い、その実用性を検証する予定です。

【論文表題】

A mature liquid fertilizer derived from cattle urine promotes Arabidopsis thaliana growth via hormone-like responses
(牛の尿から作られた成熟した液体肥料が、ホルモン様反応を介してシロイヌナズナの生長を促進する)

【著者】

Yuta Kato1, 2
Masaaki Konishi3

【所属】

1 Kankyo Daizen Co., Ltd
2 Cold Regions, Environmental and Energy Engineering Course, Graduate School of
Engineering, Kitami Institute of Technology
3 Kitami Institute of Technology

【雑誌名】

Bioscience, Biotechnology, and Biochemistry

【DOI】

10.1093/bbb/zbae080

【用語解説】

※1 シロイヌナズナ
アブラナ科シロイヌナズナ属の一年草で、様々な分野の植物研究で世界的に用いられるモデル植物。

※2 好気性微生物処理
酸素が豊富な環境下で微生物が有機物を分解するプロセス。

※3 トランスクリプトーム解析(RNA-seq)
遺伝子の発現状態を網羅的に解析する手法。本手法は、特定の条件下でどの遺伝子が活性化されているかを調べるために用いられる。

※4 Murashige and Skoog培地(MS培地)
植物組織培養や植物生理学の研究で広く用いられる栄養培地。MS培地は、窒素、リン、カリウム、微量元素、ビタミンなど、植物の成長に必要な栄養素をバランス良く含んでおり、特にシロイヌナズナなどのモデル植物の培養に一般的に利用される。

※5 限外ろ過膜
液体中に含まれる分子を分子量によって分離する膜。

※6 植物ホルモン
植物の成長や発達を調節する化学物質。代表的な植物ホルモンには、サイトカイニン、オーキシン、アブシシン酸、エチレンなどがあり、それぞれ異なる機能を持っている。

※7 シグナル伝達
細胞が外部からの刺激を受け取って、それに応じた反応を引き起こす過程。植物においては、ホルモンや環境因子がシグナル伝達を介して成長を調節する。

※8 サイトカイニン
植物ホルモンの一種で、細胞分裂や成長に関与する。

【本リリースに関するお問い合わせ】

環境大善株式会社
土、水、空気研究所(担当:加藤)
電話:(0157)-67-6788
FAX:(0157)-67-6618
E-mail:otoiawase@kankyo-daizen.jp