2025.01.16
藍藻Synechococcus elongatusの増殖を飛躍的に向上させる新規細菌Rhodococcus sp. AF2108を発見
環境大善株式会社と国立大学法人 北海道国立大学機構 北見工業大学との共同研究の成果が学術誌「Microbes and Environments」オンライン版に2024年12月28日付で掲載されました。本研究は中小企業庁成長型中小企業等研究開発支援事業(Go-Tech事業)の一環として実施されました。
【研究のポイント】
- 新規の藍藻増殖促進細菌を複数分離し、特にRhodococcus sp. AF2108がSynechococcus elongatusの増殖を顕著に向上させることを発見。
- AF2108はクロロフィルa含有量を8.5倍、細胞数を3.9倍に増加させ、既存の増殖促進細菌よりも優れた効果を持つことを確認しました。
【研究背景】
藍藻(シアノバクテリア)※1は光合成能力を持ち、大気中のCO2を固定してエタノールや脂肪酸などの有用な物質を生産するプロセスに用いられます。しかし、藍藻の増殖速度が遅いことが、商業的応用を進める上での大きな障害となっています。この課題を克服するために、細菌との共生関係を活用した共培養による増殖促進戦略が注目されています。これまでの研究で、藍藻Synechocystis sp. PCC 6803 がフェナントレンを分解し、好気性従属栄養細菌Pseudomonas sp. GM41 との20日間の共培養において、藍藻のクロロフィル※2含量を8倍に増加させたことが報告されています。
本研究では、農業廃水から分離した細菌を用いて藍藻Synechococcus elongatus PCC7942を対象とする共生細菌のスクリーニングを行い、新規の藍藻増殖促進細菌(cyanobacterial growth-promoting bacteria ;CGPB)※3を取得し、分類学的に同定し、特性を評価しました。
【研究結果】
96ウェルマイクロプレートを用いたスクリーニングにより、144株の中からS. elongatusの増殖を促進する33株を見出しました。その中から効果の高い4株(Rhodococcus sp. AF2108、Ancylobacter sp. GA1226、Xanthobacter sp. AF2111、およびShewanella sp. OR151)を選抜し、詳細な効果について調査したところ、特にRhodococcus sp. AF2108が最も顕著な増殖促進効果を示しました。S. elongatusとAF2108の共培養により、S. elongatusのクロロフィル※3含有量は単独培養と比較して8.5倍に増加しました(図1)。この結果は、AF2108が短期間で強力な増殖促進効果を発揮することを示しており、現時点で最も効果的なCGPBであることが示唆されました。
図1 フラスコスケールでの共培養実験において、CGPB(AF2108, GA1226, AF2111, OR151)と共培養したS. elongatusと単独で培養したS. elongatusのクロロフィル量の経時変化。エラーバーは標準偏差を示す(n = 3)。
S. elongatusとAF2108との共培養では、培養7日で細胞数は3.9倍、細胞サイズの指標である前方散乱強度が1.5倍、細胞当りのクロロフィル蛍光強度が2倍に増加したことが示されました(表1)。この結果から、共培養は細胞数の増加だけでなく、細胞の形態や細胞内に含まれる物質にも影響を与えていることが示されました。
CASブルーアッセイにより、分離したCGPBのシデロフォア産生能を評価したところ、特にAF2108とOR151が高い産生能を示しました(図2)。シデロフォア※4は鉄の吸収を促進し、藍藻の増殖を支援する重要な成分です。また、植物ホルモンの一種であるIAA(インドール-3-酢酸)※5の産生も確認されました。これらの結果からシデロフォアや植物ホルモンが増殖促進に影響を与えている可能性が示唆されました。
図2 CASブルー寒天培地を用いたCGPBのシデロフォア産生能の評価結果。ポジティブコントロールにはシデロフォア生産菌として知られるPseudomonas fluorescensを使用。
これらの結果から、Rhodococcus sp. AF2108は短期間でS. elongatusの増殖を大幅に促進する効果的なCGPBであり、藍藻を用いたバイオプロセスの効率化と新たな産業応用の可能性を広げる成果といえます。
【今後の展望】
本研究では、新規CGPBとしてRhodococcus sp. AF2108、Ancylobacter sp. GA1226、Xanthobacter sp. AF2111、およびShewanella sp. OR151を分離し、各株がS. elongatusの増殖を促進することを見出しました。特にAF2108は増殖を飛躍的に促進する点で、藍藻を活用したバイオプロセスの発展に大きく貢献する可能性があります。今後は、増殖促進メカニズムの解明や様々な環境条件における適用可能性の検証を進める予定です。
【論文表題】
A novel strain of the cyanobacterial growth-promoting bacterium, Rhodococcus sp. AF2108, enhances the growth of Synechococcus elongatus
【著者】
Pei Yu Tan1
Yuta Kato1, 2
Masaaki Konishi3
【所属】
1 Graduate School of Engineering, Kitami Institute of Technology
2 Kankyo Daizen Co., Ltd
3 Department of Applied Chemistry, Kitami Institute of Technology
【雑誌名】
Microbes and Environments
【DOI】
10.1264/jsme2.ME24050
【用語解説】
※1 藍藻(シアノバクテリア)
光合成を行う微生物で、水中や土壌に生息します。光合成により酸素を生成し、有用な物質を生産する能力を持ちます。
※2 クロロフィル
光合成において光エネルギーを吸収する主要な色素の一つです。植物、藻類、藍藻で見られ、光エネルギーを化学エネルギーに変換する役割を果たします。
※3 CGPB(cyanobacterial growth-promoting bacteria)
藍藻の増殖を促進する共生細菌。藍藻と相互作用し、栄養供給や環境改善を通じてその増殖を助けます。
※4 シデロフォア
細菌が産生する鉄結合分子で、環境中の鉄を吸収しやすい形に変換します。藍藻への鉄供給を通じて、その増殖を促進します。
※5 IAA(インドール-3-酢酸)
植物ホルモンの一種で、植物や藻類の成長を調節する働きを持ちます。細胞分裂や伸長の促進に寄与します。
【本リリースに関するお問い合わせ】
環境大善株式会社
土、水、空気研究所(担当:加藤)
電話:(0157)-67-6788
FAX:(0157)-67-6618
E-mail:otoiawase@kankyo-daizen.jp