2021.06.01

牛尿発酵液の水稲栽培における施肥効果の調査

環境大善株式会社は小橋工業株式会社との委託事業において牛の尿を微生物によって処理した液体、牛尿発酵液(弊社製品名:液体たい肥「土いきかえる」)の水稲への施肥効果について調査しました。

 

研究成果

岡山県の水稲圃場(品種:朝日)を中畝で3つに分け、両端の区間をそれぞれ牛尿発酵液無施用の慣行区、牛尿発酵液を施用する試験区とし、各区内にさらに1.5 m×1.4 mの観察区が3つずつ設けられました。試験区には田植え前から収穫前にかけて1.8 L/反で計5回(6/12、7/20、8/9、8/28、9/28)牛尿発酵液が散布されました。栽培途中、観察区内の土壌を適宜採取し、土壌の化学特性および水田の硫化水素低減に寄与する紅色光合成細菌数、緑色光合成細菌数を測定しました。さらに、分けつ期、幼穂形成期、出穂期、登熟期頃の生育ステージ毎に慣行区および試験区から15株(各観察区内から5株)抽出し草丈、稈長、分けつ数、穂数、穂長を測定しました。収穫の際には各観察区内全株(35株)の合計玄米重量を測定し、収量を調査しました。本試験は2020/4~2020/11にかけて実施されました。

試験圃場の航空写真と試験区画図
図1 試験圃場の航空写真と試験区画図

 

定期的に測定された草丈は慣行区、試験区共に7/20まで同程度で推移しましたが、8/8、8/22、9/7で試験区が有意に高くなり、その後再度同程度の高さとなりますが、10/10の収穫時には試験区が15 mm有意に高い結果となりました。観察区の玄米重量は、平均重量では10%増加しましたが、有意な差は見られませんでした。稲の詳しい形態については、収穫時に稈長、穂長に違いは見られませんでしたが、分けつ数および穂数の有意な増加が確認されました。

各測定結果
図2 水稲形態測定結果

(A)は収穫までの草丈の経日変化、(B)は収穫時の観察区内の合計玄米重量、(C、D、E、F)は収穫時の稈長、分けつ数、穂数、穂長を示している。シンボル、もしくはグラフ上部のアスタリスクは慣行区と統計的に有意な差(p<0.05)あることを表し、上下のバーは標準偏差を示す。

 

紅色光合成細菌数は試験区の方が6/12に牛尿発酵液を散布する以前の結果から細菌数が多かったが、その後は慣行区と同様な傾向を示しました。緑色硫黄細菌数も同様に牛尿発酵液散布前から試験区が多く、9/7まで慣行区よりも高く推移しました。しかし、10/10では慣行区の方が生菌数が多く見られました。土壌の化学特性は有効態リン、カリウムはどちらも試験区と慣行区で同様な傾向を示しましたが、アンモニア態窒素は9/7で試験区が大きく減少し、慣行区に比べて少なくなりました。次に10/10では慣行区のアンモニア態窒素が減少し、試験区よりも少ない結果となりました。

光合成細菌数と土壌化学特性の経日変化
図3 光合成細菌数と土壌化学特性の経日変化

(A)は紅色光合細菌数の経日変化、(B)は緑色光合成細菌の経日変化、(C、D、E)はそれぞれ土壌100 g中のアンモニア態窒素、有効態リン、カリウム濃度の経日変化を表した。

 

今後の期待

本研究では、牛尿発酵液を水稲栽培へ使用することで、稲の表現型や土壌に変化を与える可能性が示されました。今回の知見をもとに、牛尿発酵液の水稲への最適な施肥方法の調査を進めていきます。また、本研究成果により家畜排せつ物の再利用推進につながることが期待できます。

 

補足説明

・中畝
土を直線状に高く盛った場所。
・紅色光合成細菌
光合成細菌の一種で、紅色硫黄細菌と紅色非硫黄細菌に大別され、土壌・海洋等、地球の幅広い環境から分離されている。
・緑色硫黄細菌
絶対嫌気性の光合成細菌であり、硫化水素の豊富な場所に生息している。
・分けつ
分けつとは、稲の茎から新たな芽がでることをいう。
・稈長
稲の茎の長さ。
・穂数
米が実る穂の数。
・穂長
米が実る穂の長さ。

 

お問い合わせ

環境大善株式会社 土、水、空気研究所
研究員 加藤 勇太
電話:0157-67-6788
メール:y.kato@kankyo-daizen.jp