2021.06.11
液体たい肥 土いきかえるの水耕栽培利用における効果
環境大善株式会社 土、水、空気研究所と株式会社リバネス 農林水産研究センターは、牛の尿を微生物により分解した液体「液体たい肥 土いきかえる」の植物への施肥効果について研究を進めてきました。
本試験では、「液体たい肥 土いきかえる」を小松菜の水耕栽培へ用いることで、SPAD値、地上部重量、地下部重量の増加が確認され、色味、収量、根張りの向上が明らかとなりました。さらに、「液体たい肥 土いきかえる」を用いた区画の小松菜では、収穫時に植物に含まれる硝酸態窒素が減少しており、苦味を低減させる可能性があることが示唆されました。
研究背景・目的
近年、持続可能な社会を目指す上で家畜排せつ物の有効利用の重要性は増加しつつあります。家畜排せつ物は富栄養化等の環境汚染を防ぐため、家畜排せつ物のひとつである糞は微生物処理によって堆肥にされ、固形の有機肥料とし、尿については好気または嫌気の微生物処理によって液体の肥料へ変換された後に土壌へ散布、もしくは河川へ放流されるのが一般的です。
家畜排せつ物の肥料としての再利用は古くから行われてきましたが、液体肥料の植物栽培への有効性を検証した報告は少ないのが現状でした。そこで、環境大善とリバネスは家畜から排泄される尿の中でも最も量が多いとされる牛に尿を好気的に微生物処理した液体「液体たい肥 土いきかえる」を使用して、土壌での栽培に比べ変動要因が少ない水耕栽培にて植物への効果を調査しました。
研究成果
栽培は培養液のみで栽培を行う対照区、培養液に「液体たい肥 土いきかえる」を55倍希釈になるよう添加し栽培した区(以下、55倍区)、培養液に「液体たい肥 土いきかえる」を250倍希釈になるよう添加し栽培した区(以下、250倍区)を設けました。培養液には200倍希釈のベジタブルライフAを使い、栽培条件はPPFD 75.3 µmol ⁄ m²s、明期16時間、栽培期間は48日としました。培養液は不足した際に都度追加しました。播種13日目から48日目にかけて1週間毎に草丈、葉数、SPAD値を測定しました。栽培後、小松菜を地上部と根に分け、地上部は生鮮重量と搾汁後の硝酸態窒素、根は生鮮重量、乾燥重量、根長を測定しました。
草丈は、27日目以降で250倍区が他の区よりも高く推移したものの、最終的な草丈は、処理区で大きな差はみられませんでした(図1 A)。葉数は、27日目以降で250倍区が他の区よりも高くなったものの、最終的には、処理区間で大きな差はみられませんでした(図1 B)。SPAD値は、20日の時点で対照区が他の区よりも有意に高くなりましたが、27日目では、250倍区が高くなり、対照区との間に有意な差がみられませんでした。一方で55倍区は、対照区よりも有意に低かったものの、34日では250倍区が対照区より有意に高くなりました。対照区と55倍区の間に有意な差がみられませんでした。41日以降は250倍区、55倍区が対照区よりも有意に高くなりました(図1 C)。
図1 栽培13日目から48日目の各測定結果の経日変化
(A)は草丈、(B)は葉数、(C)はSPAD値の経日変化を示している。また、各データは9つの反復の平均値であり、シンボルの上下のバーは標準偏差を示している。
「液体たい肥 土いきかえる」を添加した250倍区、55倍区では、根毛が多く発生していました(図2 B・C)。特に根毛には250倍区が他の区に比べて多くみられました。目視でも、葉の色の違いが確認できました。
図2 栽培48日目の小松菜観察画像
左列は対照区、中央列は55倍区、右列は250倍区の観察画像。上段は真上から観察した図で下段は根を観察した図である。
茎葉生鮮重量は、250倍区、55倍区が対照区よりも有意に重くなりました。なお250倍と55倍の間では有意差はありませんでした。茎葉の硝酸態窒素は、250倍区、55倍区が対照区よりも有意に低くなり250倍と55倍の間でも有意差がみられました。根乾物重は、250倍区、55倍区が対照区よりも有意に高く、250倍と55倍の間では有意差がみられませんでした。根長は、対照区が250倍区、55倍区よりも有意に高くなりました。250倍と55倍の間では有意差はありませんでした。
図3 栽培48日目の小松菜測定結果
(A)は地上部の生鮮重量、(B)は根の長さ、(C)は根の乾燥重量、(D)は地上部10 g当たりの硝酸態窒量の測定結果であり、各データは9つの反復の平均値を表す。グラフ上部にある文字が異なる結果は統計的に有意な差(p <0.05)があることを示し、上下のバーは標準偏差を示す。
今後の展望
人口増加により都市部を中心に耕作可能面積が減少し、より高く安定した収量が得られる作物生産方法の確立が求められる中、実現する方法のひとつとして水耕栽培を利用した植物工場があります。今回の成果において、「液体たい肥 土いきかえる」を水耕栽培に用いることで小松菜の生鮮重量を増加させ、収量を向上させたことから、将来の食料不足への解決策として「液体たい肥 土いきかえる」の有効利用が期待されます。
また「液体たい肥 土いきかえる」は家畜排せつ物由来であるため、水耕栽培における有機栽培や循環型農業の実現だけでなく、持続可能な開発目標(SDGs)内の「2.飢餓をゼロに」、「12.つくる責任 つかう責任」、「14.海の豊かさを守ろう」に貢献できると考えます。
補足説明
・SPAD値
植物の葉緑素の濃度を数値化したもの。
・硝酸態窒素
硝酸塩の形で含まれている窒素のこと。
お問い合わせ先
環境大善株式会社 土、水、空気研究所
研究員 加藤 勇太
電話:0157-67-6788
メール:y.kato@kankyo-daizen.jp